クリエイターに還元し続ける仕組みとしてNFTロイヤリティの未来を考えてみた

こんにちは。Gaudiyでエンジニアをしているkei(@kei32bit)です。

Gaudiy Advent Calendar 2022」の2日目を担当します。

2ヶ月くらい前の話題ですが、NFTロイヤリティゼロを掲げたNFTマーケットプレイスが台頭してきたことで、各所のNFTマーケットプレイスがNFTロイヤリティの扱いに関する指針をクリエイターに示し、各々のスタンスを表明する動きがありました。

opensea.io

NFTロイヤリティの支払いを強制させたほうがいいのか、オプショナルにするのか、といった議論が各方面で行われていたのを見て、改めて自分の考えを整理したくなったので、今回はこのテーマで記事を書こうと思います。

自分が2021年頃に当時感じていたNFTロイヤリティにおける課題と解決策をテーマに書いた記事が以下です。 当時はクリエイターに対してNFTロイヤリティをマーケットプレイスで設定するのではなく、スマートコントラクト上でNFTロイヤリティを設定することで、プロトコルとして強制的にNFTロイヤリティを支払うような仕組みが可能になると考えていました。

techblog.gaudiy.com

あれから1年経ち、現在もNFTロイヤリティのようなクリエイターにとって還元されるような仕組みを期待しているものの、プロトコルとしてNFTロイヤリティの支払い機能を扱うことに対して違和感を持つようになりました。

本記事ではNFTロイヤリティに対する解決策ではなく、この違和感に焦点を充てて考察したいと思います。

NFTロイヤリティの現状

NFTロイヤリティとは、NFTマーケットプレイスで作品が販売されるたびに取引額の一部がコンテンツクリエイターに支払われる料金です。

最近だと以下の記事が非常にわかりやすくまとまっており、NFTロイヤリティの歴史から現状のマーケットプレイスにおけるNFTロイヤリティの方針まで追うことができます。

note.com

hashhub-research.com

マーケットプレイスではクリエイターに支払うNFTロイヤリティの設定ができます。重要な点としては、ロイヤリティの設定というものはNFTのコントラクト内に含めることができるとはいえ、実際にロイヤリティを支払うかどうかはマーケットプレイスの一存になります。

ロイヤリティに関する規格であるEIP-2981マーケットプレイス側が採用していても、最終的にNFTロイヤリティの支払い有無を決めるのはマーケットプレイス側の判断です。

マーケットプレイスをアプリケーション層、スマートコントラクトをプロトコル層とみなした場合、現状はNFTロイヤリティの支払い可否を決める権限はアプリケーション上にあると言えます。

1年前は「それならNFTロイヤリティの責務をアプリケーション層からその下の層であるプロトコル層に移せば、ロイヤリティの強制力がマーケットプレイスを問わず担保できそう」と考えていましたが、上記で記載した通り、支払いの判断を行うのはマーケットプレイス側なので、クリエイターが必ずNFTロイヤリティが受け取れるといった強制力はありません。

結局のところ、NFTが準拠しているERC−721というプロトコルができることは「NFTの転送(ex.購入)に関する移動履歴の記録」であり「NFTロイヤリティの支払い強制」ではないからです。

最近だと解決策の一案として、EthResearchでは最近NFTロイヤリティの強制力をもたせた新しいプロトコル案が提案されており、プロトコル層でのロイヤリティ支払いを強制するモチベーションも依然高そうではあります。 ethresear.ch

そもそもNFTロイヤリティの支払い機能はプロトコルレイヤーで持ったほうが良いのでしょうか?

プロトコルの役割

自分は今まで「ロイヤリティの強制力」という課題感が強かったのですが、プロトコルの役割を再考すると「強制力を働かせたいから」という理由でプロトコルに組み込むという解釈は飛躍してる気がしました。

プロトコル: 脱中心化以後のコントロールはいかに作動するのかという書籍によると、(抜粋になりますが)プロトコルは以下の意味合いを持つものだと定義されています。

・一般的にいってプロトコルは解釈を拒むものである

プロトコルは自律的な行為主のための作法なのである

(ref. プロトコル: 脱中心化以後のコントロールはいかに作動するのか. p400)

1点目については、有名なアンドリーセンホロウィッツという人物が立ち上げたa16zcryptoというweb3向け投資会社のメディアでも似たようなテーマが取り上げています。趣旨としては「web3の世界でもプロトコルに規制をかけるのではなくアプリケーションに規制をかけたほうが良い」という内容になります。

a16zcrypto.com

なぜなら規制やポリシーの多くは人間の主観的な判断が入るからです。「NFTロイヤリティを強制させたい」というのはクリエイター支援という観点からすると正義でも、マーケットプレイスからすると悪かもしれません。

2点目についてはやや抽象度が高いのですが、プロトコルが存在する状況とは「予め設定されていた目的を自身の欲求に従ってつい達成してしまうような意思決定ができる状況」という理解でいます。

具体例でいうと車のスピード違反が起こりやすい車道の改善案として、①オービス等を使用して監視する案と、②運転者に注意を要求するように車道をジグザクにしたり凸型にする案があったとします。

プロトコルに準拠してるのは②の方で、理由は「運転者が自身の体を危機的状況に晒したくないという欲求から速度を下げたいと思わせる」ような状況を作り出せているからです。①の案は言い換えると「スピード違反で発生し得るディスインセンティブと速度を上げたい欲求を天秤にかけてメリットのある方を運転者側が選択できるという余地が残されている」ような状況と言えます。

マズローの欲求5段階説に照らし合わせると、スピードを出したいという自己実現欲求よりも、下位層にある事故を起こすかもしれないという安全欲求を脅かす方が効果的だからという説明もできます。

ここで最初の問いに戻りますが、NFTロイヤリティを強制的に支払うという機能は「NFTロイヤリティを支払うことが正義」という解釈を含んだ機能だと言えるので、プロトコルで扱う機能としては相応しくなさそうです。

それではNFTロイヤリティの支払い強制力をもたせるためにはどうすればいいのでしょうか?

NFTロイヤリティの未来

上記のスピード違反の例でいうと人間のモラルに頼るのか欲求に頼るのかという観点での議論になりますが、NFTロイヤリティでも類似問題として扱えそうです。

クリエイターのファンが持つ「ロイヤリティを採用してるマーケットプレイスでNFTを購入したい」という欲求が「少しでも安く好きなクリエイターのNFTを買いたい」という欲求を上回れば、結果的にロイヤリティを支払うという目的を達成していると言えそうです。

具体的な方法を考えられているわけではないのですが、こういったクリエイターとファンを結びつける購入体験をより魅力的にするようなインセンティブ設計を目指すことで、クリエイターが還元されるような世界観が実現できるのではないかと考えています。

さいごに

以上で2日目の記事を終わります。 Gaudiyではクリエイターやファンに価値が還元されるような世界観の実現をめざして、プロダクト開発をしています。エンジニアメンバーも募集してますので、NFTやWeb3に興味のある方がいればぜひ採用ページも覗いてみてください。

recruit.gaudiy.com

明日はdoiさん(@taro_engineer)がアドベントカレンダーを担当します〜🎅